あなたがいま見ている絵、あなたがいま聴いている音楽が、一緒に鑑賞している他の人にはどう見え、どう聴こえているか、これは実は分かりません---。
例えば色なら、同じ赤でも、血のような赤とリンゴ(いろいろありますが)のような赤、緋色っぽい赤、など様々です。それらの違いをみんなが感じてはいるだろうけれど、同じように違うと感じているのか、となるとこれは別の問題になります。そもそも、緋色ってどんな色、というイメージも人によって違ったり、、、。
同じ曲を聴いても、ベースラインから聴く人と、メロディから聴く人と、人によって耳(脳)が得意とする音域は異なります。その結果、全然違うイメージで同じ曲を捉えることもあるわけです。
本書「脳の中の小さな神々」は、このクオリア(質感などと意訳されますが)を糸口に脳科学の最先端を平易に解説した本です。茂木健一郎というこの分野の第一人者の話を、元ユリイカ編集長で多彩な執筆活動を展開している歌田明弘氏がインタビュー形式でまとめたものです。第一人者でかつ説明が上手いという人の話ならではの分かりやすさで、一気に読んでしまいました。
本書では、クオリアを説明する例として次のような文章が出てきます。クオリアという言葉の持つ意味や感覚が、見事に言い表されています。
『川端康成の「雪国」を読むのは、山間の温泉宿の産業構造や人間関係についての有益な情報を得るためというひとはまずいないだろう。「雪国」には、それを読んだ時にしか得られないクオリアの体験がある。』
ほぼ全編が、歌田さんによるインタビュー形式で流れていますが、最後だけ茂木さんの「特別講義」になっています。その部分、決して分かりにくいわけではないのですが、優れたインタビュアーの大切さ、というものを実感させられるのもまた事実です。
(※ 別サイトに掲載したものをリライトしました)
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