矢作俊彦の「ロング・グッドバイ」(角川書店)。
相変わらずの導入部で一気に引き込まれる。
G60だの54Bだのといったクルマの記号が不自然に(でも、堪りませんけど)出てくるのは、
この小説が確か「NAVI」に連載された時期があったと記憶するが、その痕跡だろうか?
このシリーズの主人公は二村という刑事。
同シリーズの「真夜中へもう一歩」は、ギャビン・ライアルの「深夜プラス1」を、
本作は、レイモンド・チャンドラーの「The Long Goodbye」をそれぞれリスペクトしたものらしい。
何かのインタビューで本人が「自分は、世界一オリジナリティのない作家」と言い放っていて、
例えば「ららら、科学の子」は、サリンジャーの「キャッチャー・イン・ザ・ライ」なんだそうだ。
キャッチャー・イン・ザ・ライは、この話を聞いてはじめて読んだ(苦笑)のであるが、
ま、なかなか深い「パクリ」であるなあ、と。
日本語でロング・グッドバイと書いてしまえば、チャンドラーも矢作も同じだが、
英語だと「Long」と「Wrong」。
明らかに著者の意図が伝わってくるタイトルなのだった。
かつての横浜や横須賀が舞台ってのは、僕のような柳ジョージの「フェンスの向うのアメリカ」とかが
好きな田舎者には、堪りませんねえ、、、。
一気に読みたいような、じっくり時間を掛けて浸りたいような、そんな本である。
【9/4追記】
結局、一気に読んでしまった。
舞台は2000年の横浜・横須賀。
「ららら、科学の子」は、90年代末の渋谷の様子が素晴らしかったけれど、
「ロング・グッドバイ」は新しくなっていく横浜の中華街、関内あたりと横須賀の描写がいい。
クルマだって新しい(当然だが)。
主人公はスーパーチャージャーのゴルフ。昔はスカイライン54Bだった、とまで言わせている(笑)。
ヒロインはアルファ145。さらに、マニュアル車の運転が上手い、というお約束通りの、、、。
あれ? FFばっかですね。悪い奴らのクルマは、FRとかミニバンだったりするのは気のせいか?
そして、主人公の二村永爾は、初めて携帯電話を持つ。
「この電話、買って以来、一度だって相手が出たためしがない」---。
いや、もう最高ですね。深夜のベッドで爆笑してしまった。
ま、この手の小説は、読み手と作者のストーリーの読み合い、
という側面はあるけれど、「モチーフがありますから」と作者が言っている以上、
そんなことを「読んで」も仕方ない訳ですね。
ディテールを楽しみ、ディテールに振り回される、ディテールに気づく自分を客観する。
多分、著者が埋め込んだタネの何分の1しか気づいてないんだどうけれど、、、。
久しぶりに楽しめました。
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