北海道では寿司のことを「なまずし」という。「すし」とか「にぎり」とは呼ばず、「生寿司」(なまずし)なのである。ま、なんともいえない語感であって、内地の人は「気持ち悪いよねぇ」などと言うことさえある。子供の頃は「すし」と言われてもピンと来なくて、「なまずし」だとありがたい感じがしたものである。
北海道の寿司は「なまずし」と「ちらしずし」とが二大構成要素である。なお、ちらしずしにおいても、関東のような生の寿司ネタが乗った「ちらし」は、「なまちらし」(生ちらし)と、別格の扱い、ぜいたく品の扱いである。通常、北海道のちらしは、でんぶ、錦糸卵、干ししいたけの煮物の細切り、レンコンの酢漬け、サヤエンドウ、もみ海苔、といったものが酢飯の上に彩りよく乗っているものなのである。個人的には、飾りのイクラさえ邪道だと思う。
すし、という名前のものには、ハタハタ、鮭、ニシン、カレイ、ホッケなどで作る「いずし」(飯寿司)ってのもあるが、これは麹で漬け込んで作る「なれ寿司」であって保存食である。特にホッケのいずしは中ると激烈なので、ホッケなどという魚は干した開きを焼いたの以外は食わなくて良いものなのである。そば粉の名産地だけに蕎麦寿司なんてのもあるが、ま、これは飲み屋での締めの一品である。マグロのヅケを芯にして茶蕎麦を海苔で巻いた蕎麦寿司はなかなか美味いものだが、ま、なんとなく何かの代用品な感じは拭えなくもない。
で、なまずしの話の続き。なまずし、というだけに、北海道の寿司ネタには、煮ハマとか煮穴子とかシャコとかコハダとかシンコとかヅケとか、いわゆる江戸前仕事といった風情のネタはない。そういうものとは無縁であるからこその「なまずし」なのである(笑)。
エビは大きなボタンエビ、イカ、ミズダコ、オヒョウ、ヒラメ、キンキ、ソイ、カレイ、ハッカク、アワビ、ホッキ、ホタテ、イクラ、ウニ、浜茹での毛ガニ、などの地元の魚が、新鮮さとボリュームを最優先にさほどの工夫もなく出てくるのが大事なのである。ホッケの刺身は虫がいて中るので寿司ネタにはならない。なお、個人的嗜好ではあるが、サーモンは邪道である(笑)。あとは、申し訳程度のマグロ。北海道のなまずしは、マグロに関してはあまり感心しない。津軽海峡のマグロやまともなマグロは、みな東京方面に行ってしまう。それと、昔は青魚はなかった。アジ、イワシ、カツオなど、暖かい海の魚なので昔はなかった。サンマも流通が良くなって最近は刺身で食べるが、昔はあってもルイベだった。
なまずしの醍醐味は、甘めの酢飯。しかも握りがデカい。20貫も食えば腹が一杯だ。江戸前だとこうはいかない。上品な量のシャリで食う端からどんどん消化されてしまう感じで、いくらでも腹に収まってしまう。ただ、ススキノあたりだと、昔ながらの寿司屋もまだある半面、妙に江戸前っぽくて高い寿司屋が増えてしまって、これはあまりよろしくない。やはり地元の北の海のネタを出してもらいたい。あと、最近の北海道は米どころになったので、シャリは昔に比べるとかなり良くなっていると思う。
なまずしのネタでは、あわびが圧倒的に好きである。蝦夷あわびは、関東のあわびと違って堅くてホントにしっかりとした歯ごたえがある。コリコリと噛んでいると海の香りが広がる。もちろん煮たりせずに生である。首都圏の安い寿司屋で出てくる堅いあわびは、韓国あたりから輸入してる同種のアワビらしいけど、これを選んで食っているくらいに堅い生のアワビが好きである。「水貝」といって、サイコロに切ったアワビを氷水に浮かべて食べるのも良い。あとは、さっと湯通ししたホッキ貝かな? 湯通ししてるから厳密にはなまずしではないが、ホッキはほんのちょっと湯通ししたほうが生より美味いと思う(笑)。
札幌を離れてもう30年近いんだけど、いまでもまだ「なまずし」って呼んでいるのだろうか?
写真は、2、3年前にススキノの「東寿し」で食べた寿司の一部。ここは、北海道らしい寿司とネタで料金も良心的。料理や肴もいろいろある。もちろん、昔ながらのネタばかりではない。安心して食べられるお店である。
札幌在住の同級生が「昨日はなまずしを食べた」とつぶやいてましたw
投稿情報: tomoji | 2011/04/29 22:50
札幌で寿司というと、小学校に上がってから、ススキノと狸小路の間にあるお店に連れて行ってくれました。店の名前はなんだっけなあ? 小学生の頃から、カウンターでお好み寿司を食べてたので、家人の怒りを買ってますが。手巻きのトロ鉄火を初めて食べたのがその店でした。
その後は、尾州鮨だったり、小樽まで出かけたり、いろいろ。いまは量を食べないから、ちゃんとしたネタがあって、おいしいところがいいかな〜。
鰻は、子どもの頃はススキノの二葉でした。最近は両親が鴨々川沿いに住んでるので、和田が多いかな?
投稿情報: iori3 | 2011/05/01 19:12