この本は、山口瞳と開高健によるサントリーの社史のために書かれた「作品」である。小説っぽいが、これは小説というにはあまりに会社への想いに溢れている。この二人の代表的な作品に比べると、二人の「素の想い」が迸っている。山口瞳自ら、「筆がすべりすぎているかもしれない」などと書いているほどだ(笑)。
変な例えだが、「大リーグ養成ギプスを外して書きまくっている」感じなのである。冒頭で「作品」とカッコを付けたのは、そういう意味である。作品には、なんらかの抑制、あるいはその作品を文学たらしめる技や意思が明に暗に感じられるものだが、その抑制から解き放たれた感じが爽快なのである。
山口瞳が戦前、開高健が戦後を書いている。ネガティブなこともけっこう書いてあるけれど、基本は、会社万歳、サントリー最高、鳥井信治郎にはかなわん、のオンパレード(ま、社史なので:笑)である。こんな会社にこの二人のような立場でかかわることができて、この二人のような公私の仕事をすれば、そりゃそうだよね、と思わされる。なによりそんなことは関係なく、ギプスを外した両巨匠の文章は圧倒的である。
二人はサントリー宣伝部に在籍し、傑作コピーを書きまくり、「洋酒天国」を作っていた。山口瞳を採用したのは既に小説が忙しくなった洋酒天国編集長の開高健である。日本のウイスキー文化は、創業者の鳥井信治郎の五感と信念(幸運も多々あった。それは本書に詳しい)、売ることへの執念、そしてこの二人の「言葉」で醸成されたのだと思う。
尊敬する二人による鮮やかな「同窓」への想いを1冊で読めるなんて、こんな嬉しいことはない。
芥川賞(開高健)と直木賞(山口瞳)ってのはこう違うのだな、とかもなんとなく分かる。
随所に配される柳原良平のイラスト(アンクルトリスでお馴染み)も味わい深い。
ま、とにかく、読んでみははれ、ですな(笑)。
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