コマセに群がるアジのようにタイトルで釣られた村上春樹の音楽エッセイ。
季刊ステレオサウンドに連載されたものの編集以前のロングバーションとのこと。
単行本で出ていたものが、最近、文庫になった。というわけで、けっこうねっちりと書いてある。
いきなり、「シダー・ウォルトンがフェイバリットなオレってイケてるでしょ。13歳の時にメッセンジャーズの来日で初めて見た時は印象薄いんだけど」というような嫌味な話で挑発していますね、、、(笑)。
ま、ウォルトンの大ファンではないけれど、もう死んだ別のピアニスト(アル・ヘイグという)が不遇の時代を経てヨーロッパで復活した傑作アルバム「インヴィテーション」の1曲目がシダー・ウォルトン作曲の「ホリーランド」という曲なんだけれど、この曲、「メロディーが素晴らしい」。
で、その曲を自分で演奏しているライブ盤「ナイト・アット・ブーマーズ」は、録音があまり良くなくて、「ピアノの音がキンキンして」安物の電気ピアノみたいな音なんだけれど、けっこうよく聴いたレコードだった。
案の定、そのホリーランドについては「素晴らしいメロディーの」、ライブ盤のピアノは「音がキンキン」(古くてボロいという表現だったが)と書いてあった(笑)。
クラシックからロックまで幅広いんだけれど、ジャズでは、他にはスタン・ゲッツとウィントン・マルサリスを取り上げている。
で、ウイントン・マルサリスには、けっこう厳しい。
これ、なんとなくお互い似たもの同士、ってことで嫌なところが見えすぎる、というようなことなんじゃないですかね?(笑)
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」を改めて翻訳してみせる、なんてのは、ウイントンが古典ジャズを当代随一のテクニックで吹いてみせる、ってのとなんとなく相通じるものがあると思うわけですね。
ま、こういった、似ているとなんとなく疎ましいとか、温故知新のアプローチとか、世の中、よくあることですね。
クラシックは僕は疎いので、引っかかるのはジャズとロックの方面なんだけど、共通の話題は楽しかったし、知らない話もそれなりに読ませるところはさすが。
キース・ジャレットの胡散臭さとチック・コリアの退屈さ、といった表現(ウィントンの項にあったかな?)なんかは楽しい方で、それなりでさすがってのはウディ・ガスリーとかシューベルトとか、でした。
つか、これだけいろいろ聴いてるオレってどお、みたいな感じもなくはないけれどね(笑)。
勝手な読者としては、他にもいろいろ書いて欲しいミュージシャンはたくさんいるなぁ。