「いやー、いろいろあるなぁ」──。Googleで“ヒップフラスコ”と“スキットル”を検索したら、出るわ出るわ…。使ってる人をほとんど見たことがないので、こんなに普通に売っているとは思わなかった、というのが正直なところだった。
ヒップフラスコ、あるいはスキットルというのは、酒を持ち歩くのに使う小さな金属製のボトルである。尻のポケットに突っ込んだときにフィットするように、瓦のような形に湾曲しているのが定番だ。もちろん、単に平べったい形状のものもある。
容量は、80ml程度から240ml程度まで。通常は、6ozというように、オンスという単位で容量が表示されている。1ozは約30mlである。大小さまざまで、形や仕上げに工夫があって、モノとして非常に楽しい。呼び方には、各々こだわりがあるかもしれないが、ここではスキットルとして話を進める。
愛用のスキットルは、8oz(240ml弱)のもので、スキットルとしては大きな部類である。ヘアライン仕上げのステンレスの素っ気ないものである。もう10年くらい使っているだろうか…。旅行のときには、必ず持って行くことにしている。旅先では、夕飯が和食の場合が多いし、ホテル以外では普通は宿にバーはない、その町のバーもよく分からない、疲れているし風呂も入った後なので出かける気にならない、ということで寝る前に部屋でウイスキーが飲みたくなるものなのだ。
8ozも入るので、2泊3日程度の旅行なら、これにウイスキーを満たしておけば、ま、十分なのである。革張りではないので、残雪に埋めて冷やすとか、ぞんざいな扱いでも問題ないところが気に入っている。
もう一つのポイントはフタである。これ、本来はアウトドアで使うものなので、例えば、ランプの光しかないところでフタを落としたり、昼間であっても、うっかりフタを川に落っことしたりすると、もう使い物にならなくなってしまう。そこで、フタが落ちないように蝶番のついたステンレス板でフラスコ本体とフタが離ればなれにならないようになっている。
中に入れる酒は、別にウイスキーでなくても良いのであるが、量も限られるので、やはりアルコール度数が強い蒸留酒、特にウイスキーを入れることが多い。
例えば、ニッカの「余市シングルカスク10年」。このウイスキーは、アルコール度数が60度を超える。普通のウイスキーは40度か43度なので、アルコール分だけなら1.5倍の量を飲んだことになる。8ozのスキットル満タンで、普通のウイスキーのボトル半分くらいに相当するアルコールの量なのだ。
というわけで、荷物に制約のある旅行にはぴったりのウイスキーとも言えるのである。これを旅先の美味い湧き水で割って飲むのは、なかなか捨てがたいものがある。もちろん、バーボンやスコッチを詰めて行くこともある。その時は、「彼の地の水と日本の水との出会いだぁ」などと、普段、水割りを飲むときには考えないようなことも少し考えたりする。
とはいえ、旅の道中、飛行機や新幹線でスキットルからウイスキーを飲んでいる人には、まずお目にかからない。好きな銘柄のウイスキーを詰めて行ってミネラルウォーターを買って適当に飲む、という方が機内(車内)販売の水割りを待つより、よほど快適で安上がりではないかと思うのだが…。
ただし、飛行機の手荷物検査は問題である。先日も、北海道に行く際の羽田空港で、チェックに引っかかった。まず、パソコンが“本物のパソコン”であることを確認された。まあ、これは予想の範囲。で、次がスキットルであった。
係)「これは何ですか?」
私)「ウイスキーですけど、、、」
係)「開けて中身を確認させていただけますか?」
私)「どうぞ、かまいませんよ」
キュキュキュ…(フタを開ける音)
ここで係員、鼻を近づけていきなり吸い込んだから、大変だった。「な、何ですか、これは?!」と思いっ切りのしかめっ面(笑)。その時、満タンに入っていたのは、前述の「余市」だったのだが、60度超のカスクストレングスの芳香をモロに吸い込んでしまったのだった。申し訳ないことをした。アルコールがダメな人なら、嗅ぐだけで酔うほどである。理科の実験の時に習ったように、手であおいで嗅ぐように言うべきだった。逆に、ウイスキー好きなら、これは仕事どころではない。
確かにウイスキーは、マッチを近づけると火も付くし、ステンレスのボトルとはいえ、飛行機に持ち込むものとしては危険かも知れない。実際、米国の空港では、中身を捨てさせられる場合もあるようだ。日本の空港では今のところまだ、「捨ててください」という話になったことはないのだが…。
※この連載は2004年から2005年にかけて、nikkeibp.jpサイトに掲載したもののアーカイブです。
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