久しぶりに買った最新号の「ブルータス」(マガジンハウス)の特集は、煙草とコーヒーがテーマであった。ニコチンとカフェインは“合法ドラッグ”である、というような内容のことが書いてあったが、酒(エチルアルコール)も明らかにこの範疇(はんちゅう)であろう。ただ、煙草とコーヒーはリラックスはしつつも覚醒を助けるものという側面が強いが、酒は仕事を終えてからの精神的な弛緩を助けるという性格が強いと思う。ウイスキーは、頭が冴えるような気がするものではあるが、基本的には、飲めば酩酊の方向にあることは間違いない。
煙草やコーヒーが原因で人生を棒に振る人はほとんどいないと思うが、酒で取り返しのつかないことをしてしまう人は、古今東西たくさんいる。最近では、路上で女性に抱きついた某代議士のことが記憶に新しい。報道されているような類の店に代議士が一人で行く、夜の繁華街を酩酊(ホントか?)して一人で歩いている、という事自体がかなりの驚きだった。これはどう見ても“国家的なリスク”ではないか(苦笑)。
この手の事件を見聞きするたびに思うのは、「酒に酔っていて覚えていない」という釈明が多すぎるということである。日本の社会は酔っぱらいには甘いところがあるからか、何か問題を起こしても、酒のせいにしておけば済むような雰囲気もなくはない。実際、そういうふうに、酒で誤摩化している例は無数にある。そして、いわゆる「酒乱」の人も、普通の酔っ払いも、何かあったときには同じように「酒を飲んでいた」の一言で片付けられるのだから困ったものである。
同じように酒を飲んでも人によって違う、というようなことを言っていると、アルコール分解能力が違うんだから、酒気帯び運転の一律の取り締まりはおかしいとか、飲んで運転して捕まったことがない、とか言い出す人がいる。こういう人は、それこそ論外なので、ここではこれ以上触れない。一人で怪我とかしているうちは良いのだが、酒を飲むことの社会的なリスクは、実は、酒飲みが思っている以上に大きいのである(ま、自戒も込めて…)。
もちろん、痛飲して一部記憶が飛ぶこともあるわけだが、その記憶が飛んだ状態でどういう酔っ払いなのか、自分である程度認識できていることが必要だろう。記憶が飛んだ時に一緒に飲んだ相手が信頼できる友人であれば、ある程度その状態の自分を知ることができる(ま、相手も飛んでいることもある:笑)。多少なりともそれが分っていることは、その後の酒飲み人生にどれだけプラスになるか計り知れない。当然、分っていても何度も失敗するのが人間だし、酒を飲んだダメな状態を言い訳に使うことが常態化しているような人さえいるので、その状態になるかどうか、ならないようにするかどうかは、まったく自分だけにかかっているのである。
煙草は、やめて8年くらいだろうか。それまで、ショートホープやマルボロなどのキツめの銘柄を1日に50本近く吸っていた。きっかけは忘れたが、ある日、突然、完全にやめた。煙草の味が変わったのか、こっちの具合が変わったのかは分らないが、美味いと思える煙草がなくなった、というのもきっかけの一つだったように思う。
煙草をやめるコツは、軽い銘柄にしたり本数を減らしたりせずに、スパッと完全にやめたこと。それと、むしろこっちが重要だと思うが、「やめたやめた、禁煙だぁ」などとは思わずに、単に吸わないでいるだけ(この辺、ビミョーですが)という状態をキープすることだった。今では、たまに“もらい煙草”したりするが、それで煙草をまた吸うようになるということはない。周りで吸われても気にならないし、そもそも十数年にわたってずいぶん吸っていたので、今さら間接喫煙は勘弁などと主張するつもりもない。
ただ、若い頃は煙草を吸っていても平気でジョギング(2キロ8分台だった。今は12分:苦笑)したり、朝もスッキリ目覚めたりしていたのが、最近では煙草をやめているのにもかかわらず何となくスッキリしない状態が普通になっていたりするわけで、これはこれで複雑だ。人間、“煙草吸って元気”なくらいが丁度良い、と思ったりもする。
1本もらったりして、ごくたまに煙草を吸うと、煙草を吸い始めたころの感覚を味わうことができる。なんとなく煙草の扱いもぎこちないし、味も当時感じたような新鮮な感じがする。これはなかなか悪くないものであるが、2本目にはもう消えてしまう感覚なので、これを味わうには普段は吸わないという状況を保っていなければならないのである。
実は、煙草と同時に漫画週刊誌もすべてやめたのだった。少年ジャンプ、マガジン、サンデー、ビッグコミック、スピリッツ、モーニングなどである。煙草と雑誌に使っていた分のお金は、それまで以上に酒と馬券に回ることになった。雑誌や煙草は消費する一方だが、馬券はたまには戻ってくるので有り難い(笑)。
酒、特に日本酒は、食事のときに欠かせないものでもあるので、煙草のようにやめるということはない。というか、“やめる対象”にはなり得ない。ウイスキーは、食事の後や平日の夜に帰宅する前には欠かせない。
同様に日中はコーヒーが欠かせない。職場では、近くのカフェのテイクアウトを良く利用するし、どうにも調子が出ないと休憩しに行ったりする(席を占拠してからコーヒーを買うのはやめませんか?:苦笑)。自宅では、近くの自家焙煎のコーヒー豆屋で「マンデリンを中深煎りで酸味は抜いて」とオーダーした豆を買ってきて、自分で挽いて、ペーパーフィルターで落として飲む。申し訳ないが、これ以上美味いコーヒーにはほとんどお目にかからない。余談ではあるが、豆を挽くのにフィリップスの電動ミルを30年以上使っているが、これは道具として素晴らしいものである。
ま、こんな状況なので、煙草はやめているが「ウイスキーとコーヒーをどちらか選べ」と言われたら、これはかなりキツい話なのである。
※この連載は2004年から2005年にかけて、nikkeibp.jpサイトに掲載したもののアーカイブです。
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