田舎暮らしに移行して一番減ったもの、それは外食(回数、費用共に)です。店がないというだけではなく、飲食店をやっていると、理由はいくつかありますが、なかなか外食をしない(できない)ものです。今回は、そんな制約のある富士山麓での日常の食について、さらに馬刺しや駅そば、駅弁、裾野名物のうどんなど、御殿場周辺のグルメ情報をご紹介しましょう(冒頭の写真は「笠雲の富士山」。天気が崩れるときのサインともいわれていますが、このときはこのまま持ちこたえました)。
夜の営業が終わって店を閉め、アパートに戻る。駐車場にクルマを停めたら、3階の部屋には戻らず荷物を持ってそのまま徒歩数分の交差点に向かう。徒歩圏にある酒が飲める店はこの辺りの何軒かだけ。さて、晩飯には何を食べようか、と考えつつの数分。選択肢は限れられているが、いずれにしても、仕事の後の大ジョッキがまずいわけがない――。
田舎暮らしに移行して一番減ったものは、やはり外食です。理由はいくつかありますが、最も大きな理由は、飲食店をやっていると営業時間や休憩時間、定休日がカブるということだと思います。その点、年中無休だったりランチ後の休憩がない通し営業のお店、夜遅くまでやっているお店などは、本当にありがたい存在です。
アパートから徒歩数分のところにはちょっとした交差点があって、焼肉屋2軒、台湾料理屋(ま、シジミ炒めも腸詰めもないので普通の中華という感じですが)、居酒屋などがあります。とりあえず、普段の生活の中で、徒歩圏で酒が飲めるところはここにある何軒かだけです。
このうち台湾料理屋と焼肉屋のうち1軒はいつでも営業していて、しかも深夜までなのでとても助かります(いや、頭が下がります)。焼肉だと牛肉を焼く前提になりますが、台湾料理の方はメニューが豊富なので潰しが利くというか何というか、とても便利な存在です。
各店、肉がうまい、質より量など特徴があり、お客さんのターゲットも微妙に異なるのではありますが、基本、すぐ近くの自衛隊の駐屯地がメーンターゲットのようです。聞こえてくる話が自衛隊関係の内容が多いようですし、迷彩服のまま酔い潰れている人などもたまに見かけます(笑)。
1人で飲んでいると、お店のおかみさんも気を遣ってか、「こいつ何者?」との好奇心からか話しかけてくれるのですが、何となく商売では定番の「愚痴っぽさ」(天気が悪いとかバイトが休んで大変だ、とかいろいろ)にあふれていて、この辺りの商売の雰囲気がおぼろげに分かるのが面白いところ。同業者ではあれど競合するわけではないので、店の住所や連絡先を記載したショップカードを渡すとお客さんに紹介してくれたりもして、とてもありがたいことです。
中には、ママさんとパートのお姉さんだけが働きモノで、「マスター」は何もせず「いやいやいや~、疲れちゃうよ~」などと言いつつうろうろしているだけのお店もあって、ここには食べることもさることながら、マスターのなかなか味わい深いダメさ加減を見に行くということが目的化してしまった感もあります。ま、飲食店の“キラーアプリ”にはいろいろあるものです(笑)。
晩飯といえば1軒では済まないのが酒飲みの悪い癖で、居酒屋でビールをちょっと飲んでから、店を変えて紹興酒など飲みつつ焼きビーフンを食べる、というような「ハシゴ」をするわけですね。腹を満たすことよりもハシゴすることが目的化しているとも言えますが、交差点付近に4軒あるので2軒ハシゴするなら6通りあるわけです(馬連4頭ボックスです)。順番まで考慮すると12通り(馬単ですね)。ま、焼肉屋2軒のハシゴはないとしても、こう考えると組み合わせは意外にあって、それなりに楽しめるような気がしてきます。
こんなわけで、焼肉と中華はナントカなる(油断すると週に4回とかになってしまいます)のですが、食べたくても食べられないのが刺身や寿司。寿司は、富士山麓ではスーパーのパックの寿司が関の山。ほぼ確実にサーモン(本来、生で食う魚ではないのでどうも好きになれません)が入っているし、夜に2割引きなんてシールに釣られて買うと、実は「サビ抜き」の表示がシールに隠れていて悶絶(もんぜつ)したり。沼津港に揚がった魚が食べられるちょっとまともなチェーンの寿司屋も国道246号線沿いにあるのですが、寿司には燗(かん)酒が欲しくなるのでクルマで移動の生活ではなかなか難しいところです。
そもそも御殿場周辺では、刺身といえば馬刺しです。御殿場からアパートまでの間には、馬刺しを売っている肉屋が何軒もあります。買ってきてアパートで食べることもありますが、焼肉屋には馬ユッケ、その向かいの居酒屋は馬刺し、とメニューにあるので馬刺しには困りません(薬味はやっぱりニンニクですね)。そんなわけで、マグロやタコのブツとかシメサバなんかを出してくれるようなお店は、東京に出張するときの楽しみにしています。
都会にいた頃は、ほぼ毎日のように食べていたのが「駅そば」。これも、田舎ではなかなか食べられないものの1つです。そもそも徒歩圏に駅がない(笑)。それでも、JRの御殿場か三島の駅まで行くと駅そばがあります。駅そばがあると、大して腹が減っていなくても食べてしまうのが習い性なのですが、どちらもこの地域で駅弁なんかを手広くやっている企業が運営しており、味の方向性は同じということが分かりました。「富士そば」に「小諸そば」、「吉そば」に「梅もと」、「箱根そば」に「常盤軒」、横浜なら「相州そば」などと、いろいろと個性のある駅そば・立ち食いそばを楽しめるのは、都会ならではですね。
御殿場駅の駅そばは、何度か行きましたが天ぷらそばがいいです。注文が入ってから小振りのフライヤーで仕上げの加熱をして、揚げたてをそばの上に乗せてくれます。いなりずしが1個60円というのもありがたい。新幹線の三島のホームのそばは、駿河湾ならではのシラスのかき揚げとサクラエビのかき揚げがうれしいですね。これも良心的なかき揚げです。
それと御殿場周辺には、筑前煮みたいな具がたっぷりの「みくりやそば」という名物のそばがあります。これを名乗るには、麺に山芋あるいは自然薯が入っている、御殿場で製麺している、御殿場の水を使っているなどいくつか条件があるようで、店内に「振舞麺許証」なるものが掲示してあります。御殿場駅の駅そばにもあるのですが、鶏やシイタケなどが入ったなかなか味わい深いそばです。
三島の駅といえば、駅弁の「港あじ寿司」(これも駅そば運営の会社の商品ですが)が、個人的にはイチオシです。酢で締めたアジの握り、太巻き、わさびの葉で巻いた寿司という3種類のアジの寿司が入っていて、指先くらいの生ワサビが付いています。しょうゆの小皿の底がおろし金になっていてワサビをすって食べます。寿司が3種類で飽きないし、何よりワサビの香りが良いですね。東京に出張の時など、これと温かい緑茶で新幹線の車中で朝食です。
仕入れなどで御殿場市内に行ったときに遅い昼食を食べるわけですが、冒頭にも書いたように当方と同様の休憩時間だったりして、なかなか店の選択肢が限られてしまいます。
数少ない選択肢の中で気に入っているのが、チャーシューがしっかりしていてうまいラーメン屋。何より、通し営業なのがありがたいのですが、トロトロだのあぶりだのといったギミックとは程遠い、良質な豚ロースをしっかり縛って煮ました、というチャーシューが最高です。これを惜しげもなく乗せたチャーシュー麺が一番ですね。ラーメンは「普通」なんですが、この普通さが良い。自己陶酔やこだわりという名を借りた頑迷さや、あるいはこれでもかのジャンクさなどとは無縁のラーメン。こうしたラーメンが少なくなったように思うのでホッとします。
メニューには、「醤油(しょうゆ)チャーシュー麺」「味噌チャーシュー麺」「塩ラーメン」とありますが、なぜか塩にはチャーシューの設定がありません。それが何らかの見識なのか、メニューのスペースの都合なのかは良く分かりませんが……。しょうゆ以外にはコーンが乗っています。これまた個人的な嗜好での一般論ではありますが、このよくありがちなコーンというトッピングは、バター・コーンなんてのも含めて、ラーメンにはまったくの邪道だと思っています(あくまで好みです:笑)。味が合わないと思うし、何よりスープの底に沈んでしまってスープをほとんど飲み干さないと必ず残ってしまいます。コーンは乗せないでくれ、などというオーダーも何だか嫌味な感じだったりするので、たいていは醤油チャーシュー麺です。
御殿場や裾野の名物といえば、甘いものは別として、裾野餃子(ギョーザ)、裾野ポーク、馬刺しなどが挙げられます。この辺りは畜産が盛んな土地柄なので、仕入れに行く肉屋さんでは、とても良い肉やモツが手に入ります。
休みの日には、オジサンなのに「美人の湯」(前々回に紹介したヘルシーパーク裾野)に入ってから、食堂でノンアルコールビールを飲みつつ「裾野ポークの焼肉丼」などを食べるわけです。地元である裾野市・須山の名物の一つに「すやまうどん」(自宅敷地内に製麺所があってそこで直販している)というのがありますが、それと裾野ポークのしょうが焼きを組み合わせた「須山定食」といったメニューもなかなか捨てがたいですね。温かいすやまうどんに裾野餃子を乗せたものも、なかなかに須山的です。裾野餃子は、皮にモロヘイヤを混ぜ込んであって、緑色なのが特徴です。裾野市はギョーザの町をアピール中で、ゆるキャラまであってけっこう盛り上がっているようです(笑)。
すやまうどんは、ひやむぎを太くしたような独特のコシのあるうどんで、温かくしても冷たくしても、和風はもちろん洋風でもおいしく食べられます。「まかない」用に自分の店でも常備しており、暑い時期には冷やしたすやまうどんにオクラとおろしショウガを乗せてさっぱりとか、ちょっと残ったミートソースをインドスパイスでキーマカレー風(牛肉なのでインド料理ではあり得ないのですが)にしたものをからめてみたりとか、どれもおいしく食べられます。
というわけで、これから自分の店のある富士山麓エリアでどれだけ新しいお店を開拓できるか不明ですが、半年ちょっと経過した現在の感じだと、これ以上はなかなか現実的な選択肢は広がらない予感がしています。飲食店をやっているということと、クルマなので酒が飲めない、というのはやはり支配的な要因ですね。
次回は、田舎暮らしとは言ってもWebの仕事で東京出張がけっこうあるので、出張にまつわる話をしたいと思います。それでは、次回までごきげんよう。