前回ちょっと触れたように、最近のウイスキーはアルコール度数40度のものが多くなってきている。なぜ40度なのかと常々疑問に思っていたし、そういった内容のコメントもいただいたので、ちょっと調べてみた。
どうやら、「ウイスキー」と名乗れるのは40度以上、とEU主導の国際規格で規定したため下限の度数の製品が増えてきた、ということのようだ。なぜ、従来一般的だった43度ではなく40度という数字になったのかについては、明確な答えは見つかっていないのだが、消費者のライト志向、健康志向にウイスキーらしさを失わない範囲で対応する、同量の原酒(加水前はアルコール度数は高い)から作れるボトルの本数が多いなど、一部のヘビードリンカー向けではないマジョリティ向けのマーケティング、といったビジネス面の条件から決まっていったのではないかと推測している。
ちなみに、このEU規格が決まったのは、独立行政法人酒類総合研究所の情報誌によれば1989年だという。酒を飲み始めた1980年代前半には40度のウイスキーはなかったと記憶するので、時期的なつじつまも合うような気がする。ただし、インターネット商用化以前の話だけに、ネット上にドキュメントなどがふんだんにあるわけではない。多分に状況証拠的な話の積み重ねであることはお断りしておく。正確な情報をお持ちの方は、コメントなどいただけると有り難いと思う。
規格というものは、各国の標準化機関が決めているし、それを貿易などに対応させるために、規格間の「相互認証」という仕組みがある。つまり、EU規格でOKなら日本の同種の規格でもOKであるとみなす、というような枠組みを整備することで、どこか1カ所で認証できればそれで良しとすることが可能になる。通信の世界では、OSI(開放型システム間相互接続)などがその典型である(90年代半ばには、通信の雑誌の編集部に所属していたので…)。
たくさん売れる、世界で売れる(売りたい)、という製品は国際規格で、ということなのかもしれない。「ウイスキーは地酒」とはいえ国際標準に沿った輸出製品でもある、というところか。
なお、40度のウイスキー(「国際規格の40度です」と書いているようなネットショップもある)は、普通サイズのボトルが700mlというものが多い。“ローカル規格(?)”43度の場合は720mlが多い。この辺も、20mlと微妙な差ではあるものの、大量生産では効いてくるだろうし、バーでショット売りする場合は、けっこうな差になる勘定である。
例えば、1ショット45ml(約1.5オンス)とすれば、720mlなら16杯取れるが、700mlだと15杯でちょっと余る計算なのだ。お世話になっているバーのマスターも、「珍しいウイスキーが入ってくる時は700mlか720mlかを確認するよ」と語っていた。値打ちものであれば1杯数千円の世界だから、この20mlの違いは大きいのだ。
余談ではあるが、バーによっては、安いなと思ったら1ショットが1オンスどころか20mlだった、というようなこともある。グラスに入った酒の量を目分量で判断できる客など少ないだろうし、ワンショットというのは普通はどのくらいなのかを知らない客もたくさんいると思う。メニューに分量が明記してあれば良いのだが、「ワンコイン・バー」なんて言葉だけで安そうに見せるようなやり方は、ちょっとどうかと思う。ま、量も味のうち、でもある(笑)。
酒瓶の容量は、ビール瓶(大瓶、中瓶、小瓶)などもそうだが、歴史的背景があって決まっているものである。ところが最近は、500mlなどというウイスキーも見かけるようになってきた。以前紹介したニッカの「フロム・ザ・バレル」は発売以来そうだし、最近出たグレンモーレンジの「アルチザンカスク」(職人の樽という意味)も500mlだった。価格と度数と容量をよく見極めないと、何となく割高な思いをさせられたりするわけだ。
ところで、日本の酒税法を調べてみると、40度を境にアルコール度数によって税率が変わるようになっている。そして、40度未満の酒をウイスキー類に含めていること、あるいはブランデーもウイスキー類に含まれるといったことが、伝統的なウイスキーやブランデーの生産国にとっては不満の種であるようだ。これも、今回改めて分ったことの一つである。
■ウイスキー類の酒税(1キロリットルにつき)
(1)アルコール分が40度以上41度未満のもの 409,000円
(2)アルコール分が41度以上のもの 409,000円にアルコール分が40度を超える1度ごとに10,225円を加えた金額
(3)アルコール分が40度未満38度以上のもの 409,000円からアルコール分が40度を下る1度(1度未満の端数があるときは、その端数は1度とみなす)ごとに10,225円を引いた金額
(4)アルコール分が38度未満のもの 378,325円
個人的には、40度のウイスキーはなんとなく薄く感じてしまう。50度前後が美味いかなぁ…。ま、体調や気分、その夜のデキ上がり加減に合わせて割って飲むこともできるので、はじめから薄い酒はちょっとなぁ、という感じなのである。
※この連載は2004年から2005年にかけて、nikkeibp.jpサイトに掲載したもののアーカイブです。