料理の名前としては、同じようなものにならざるを得ないとしても、レシピは固定的なものではありません。自分で好きな味にすれば良いのです。
前回のインド風辣子鶏「鶏のスパイシー炒め」と今回のものでは、材料はほとんど同じですが、味はけっこう違います。どちらも、余った鶏肉で手軽にできてとても美味しいのが良いところです。
今回は、鶏肉150g程度、タマネギ4分の1個、トマト半分、ピーマン1個などが冷蔵庫に残っていたので、それらを使って辛口のドライなカレー(サブジ)にしてみました。オリーブオイル、ニンニク、ケチャップなどでスパゲッティ・ナポリタン、という手も無くはなかったのですが。
スパイシーにしたかったので、まずはホールのアジョワンとクミン、切れ目を入れて種を取った鷹の爪をサラダ油で熱します(テンパリング)。香りが出たら、ショウガの千切りを加え、すぐにタマネギのみじん切りを加えます。タマネギが透き通ってきたら粗みじんのトマトを加え、潰しながら加熱します。
全体が馴染んでペースト状になったら、塩と基本の三種のパウダースパイス(パプリカ、ターメリック、カイエン。今回はカイエン多めで辛口に)を投入し、スパイスに火を入れてカレーベース(マサラ)にします。
マサラに食べやすく切った鶏肉を加え、焦げ付かないように気を付けてかき混ぜながら鶏に火を入れます。全体のとろみが多少強いはずなので、水を少々加えます。鶏にほぼ火が入ったら、適当な大きさに切ったピーマンを加え、塩気を確認します(塩を入れる時には、この段階を想定した量を入れます)。ピーマンは、余熱で火が入って色が悪くなるので、最小限の加熱にしておきます。
最後にガラムマサラを振り入れて、火を止めます。食べるときに生クリーム少々を垂らしても良いでしょう。
前回は、多少の甘酸っぱさを目指しましたが、今回は基本のトマトベースでショウガと辛みが効いている、という仕上がりを意識しました。
自分が食べたい味、自分なりのでき上がりのイメージを持って、何をどう使えばそれに近付けられるか、という経験値を積むことで、ちょっとした応用が利くようになります。思い描いた味に仕上げることができるようになります。もちろん、たまには失敗することもありますが、失敗の要因を認識するだけではなく、そこからのリカバリーも含めて良い経験です。
材料を厳密に計量したりして全てをレシピ通りに作っても、それはそのレシピの作成者が作る物と全く同じではありません。使っているスパイスの品質(による味わいと香り)も違えば、ガラムマサラの風味は千差万別です。フレッシュトマトなら、時期や産地によってけっこう味が異なります。ガス台の火力も、鍋の厚みや形状も違うでしょう、それらが全部同じだとしても、ちょっとした手際や手順の違いで味は変わってくるものです。
レシピを完全に再現することよりも、レシピは道案内くらいの感じでエッセンスをくみ取り、自分なりのイメージを持って、それにどれだけ近付けられるか、ということを意識する方が遥かに重要です。そうでないと、素材を変更してみる、あるいはレシピにある素材の何かが無いときにどうする、などの応用や展開ができません。