よく言われる「通信と放送の融合」ですが、どんなイメージをお持ちでしょうか?
「コンテンツには相応しいフォーマットがある」(Webメディアを運営していた頃にインタビューした押井守監督の言葉)ということに照らすと、現在、議論されているようなこと、つまり、テレビのコンテンツがネットに流れるというような話は、本質的ではないような気がします。極論すれば、権利処理だけの問題と言えると思うからです。
相応しいフォーマットというのは、例えば映画なら2時間ものを巨大スクリーンで観る、テレビなら30分のバラエティ番組をだらだら見る、というようなコンテンツの特性と再生環境を指しています。ネットのコンテンツには、ネットなりの特性とパソコンのディスプレイと対峙して見るという再生環境があります。
融合の際に、パソコンとテレビに加えて重要な役割を担うのが、携帯電話だと思っています。パソコンのインターネットでWebというメディアが成立したように、携帯電話がメディア化する段階に差しかかっているのではないか、と思うのです。iモードのようなネット機能の話ではなくて、パッケージングやブランディングを含めた、携帯電話自体のメディア化が始まっているのではないかと思います。
その意味でも注目しておきたいのが、4月から始まった「ワンセグ」です。
スポーツやイベントなどは、みんなで同時に楽しむことに意味がある共時性の強いコンテンツです。ワンセグ対応の携帯電話であれば、こういったコンテンツへアクセスするためのトリガーとなる情報を個人あてに送れるうえに、場所を問わずにその場でそのまま楽しめるわけです。原理的には、メールで携帯に飛んできたイベント情報をクリックすると、携帯がその放送を受信し始める、というようなことも不可能ではありません。もちろん、実現しようとすれば、通信事業者や端末メーカーによる様々な差異を埋めるような仕組みが必要になるでしょう。
2008年以降にはサイマル放送(テレビと同じ内容を放送する)の縛りが解かれる予定です。そうなると、携帯向けの独自のコンテンツを流せるようになります。携帯に相応しいフォーマットのコンテンツの姿は、まだはっきりしていないわけですし、サイマルである限りフォーマットはあまり意識されていないわけですが、将来は、独自の新しいコンテンツと既存のコンテンツが連携しつつ、新しいサービスを構成していくようになるのではないでしょうか。そういった段階が「融合」の第一歩かな、と思うわけです。
おそらく、今ある素材と技術と枠組みだけで、融合ということをイメージしても、それは何かが足りない、あるいは違っている、ということになる可能性が高いと思っています。だから、今、ここで書いたことも、ごく一部の話だと思っています。